実家の建て替えなどを検討する際、既存の建物が未登記物件だと判明するケースは少なくありません。未登記物件を取り壊して新築する場合、どのような登記手続きが必要なのか迷う方は多いでしょう。
結論から申し上げると、古い未登記物件の解体時に法務局での手続きは不要ですが、新築時には必ず「土地家屋調査士」による「表題登記」が必要です。
本記事では、未登記物件の建て替え手続きの全容から、表題登記の仕組み、そして専門家である土地家屋調査士の役割について詳しく解説します。
【結論】未登記物件の建て替えの流れと専門家の関わり方

未登記物件を建て替える際、手続きは「古い建物の取り壊し」と「新しい建物の新築」という2つのフェーズに分かれます。それぞれにおいて行うべき手続きや、関与する専門家が明確に異なります。
古い未登記建物の解体時は自治体への届け出のみ
登記されている建物を解体した場合は、法務局で「建物滅失登記」を行う義務があります。未登記物件の場合はそもそも法務局に記録が存在しないため、滅失登記を行う必要はありません。その代わり、固定資産税の課税を止めるために、管轄の市区町村役場へ「家屋滅失届」を提出します。
解体した事実を自治体に申告することで、翌年以降の不要な固定資産税の支払いを防ぐことが可能です。
新築時の「表題登記」は土地家屋調査士へ依頼
新しい建物を建築した際は、完成後1ヶ月以内に法務局へ「建物表題登記」を行う法的義務があります。この表題登記を担うのが、不動産の表示に関する登記の専門家である「土地家屋調査士」です。土地家屋調査士が図面を作成して表題登記を完了させた後、司法書士が「所有権保存登記」を行うというリレー方式で手続きが進みます。
専門家同士が連携することで、住宅ローンの設定から将来の売買までスムーズに対応できる状態が整います。
そもそも未登記物件と表題登記の仕組み

未登記物件の建て替え手続きを正しく理解するためには、登記制度の基本を押さえておくことが重要です。ここでは、未登記状態が生じる背景と、表題登記の本来の目的について整理します。
未登記物件(未登記建物)とは何か?
未登記物件とは、建物の物理的な状況を示す「表題部」の記録が法務局に一切存在しない建物のことを指します。かつては住宅ローンを利用せずに自己資金で家を建てるケースが多く、登記を行わなくても生活に支障が出なかったため、そのまま放置されている建物が全国に多数存在します。法務局の登記簿には載っていなくても、自治体は航空写真や現地調査で建物を把握しているため、固定資産税の納税通知書は届くのが一般的です。
この「固定資産税は払っているのに登記が存在しない」というギャップが、相続や建て替えのタイミングで発覚する主な要因となっています。
建て替え後に必須となる「表題登記」の重要性
表題登記とは、建物の所在、種類、構造、床面積などの物理的な状況を公の記録に登録し、その不動産を特定する手続きです。
不動産登記法第47条により、建物を新築した際や未登記建物を取得した際は、所有権の取得日から1ヶ月以内に表題登記を申請する義務が課されています。表題登記が完了して初めて、法務局のシステム上にその建物の「家屋番号」が付与されます。
この表題登記という「器」がない限り、所有者の権利を証明する「所有権保存登記」や、住宅ローンを組むための「抵当権設定登記」を行うことはできません。
表題登記は土地家屋調査士がするのか?

よくある疑問として、「表題登記の申請は誰に相談すればいいのか」という点が挙げられます。結論として、表題登記を含む不動産の「表示に関する登記」は、土地家屋調査士の独占業務です。
土地家屋調査士が表題登記を担う理由と役割
不動産の登記には、建物の物理的状況を示す「表示の登記」と、所有権や担保などの権利関係を示す「権利の登記」の2種類が存在します。このうち、表示の登記を代理申請できるのは土地家屋調査士のみと法律で厳格に定められています。
表題登記の申請には、現地での精密な測量と、ミリ単位の規定に基づく「建物図面」や「各階平面図」の作成が不可欠です。
土地家屋調査士は不動産の現況を正確に把握し、法的な基準に則って図面化する高度な専門技術を持っています。
司法書士との業務分担と連携プレー
土地家屋調査士が表題登記を完了させた後は、登記手続きのバトンを司法書士に渡します。
司法書士は、作成された表題部をもとに、誰がその建物の所有者であるかを公証する「所有権保存登記」を行います。金融機関から融資を受けて建て替える場合は、対象物件を担保に入れるための「抵当権設定登記」も司法書士の管轄となります。
建物の建て替えにおいて、土地家屋調査士が物理的な「形」を登記し、司法書士が「権利」を登記するという明確な役割分担が成り立っています。
未登記家屋は土地家屋調査士が調査するのですか?

未登記のまま放置されている古い家屋や、建て替えによって新築されたばかりの建物について、現地での詳細な調査を行うのも土地家屋調査士の仕事です。調査段階でどのような確認や作業が行われるのか、具体的なプロセスを解説します。
現地調査と測量による建物の現況把握
土地家屋調査士は対象となる建物に赴き、専門の測量機器を用いて建物の外形や各階の寸法を正確に計測します。
屋根の種類や材質、階数、用途(居宅や店舗など)を細かく確認し、不動産登記規則に適合する床面積(壁芯計算など)を算出します。古い未登記家屋を解体せずにそのまま登記して活用する場合も、建て替え後の新築建物を登記する場合も、この厳密な現地調査が欠かせません。
作成された図面は法務局に永続的に保存されるため、一切の妥協が許されない重要な工程です。
表題部所有者を裏付ける緻密な資料収集
建物の物理的な形状を測量するだけでなく、「誰がその建物を所有しているか」を調査・証明する作業も行います。
建て替えによる新築であれば、建築基準法に基づく建築確認済証や、施工業者の工事完了引渡証明書などを収集して法務局へ提出します。過去の未登記家屋を登記する場合は資料が紛失していることが多く、固定資産税の課税証明書や相続人の上申書などを組み合わせる高度な判断が求められます。
これらの証拠資料を過不足なく揃え、登記官が適法に登記を実行できるようにお膳立てをするのがプロの腕の見せ所です。
未登記物件を建て替える際の具体的な手続きの流れ

実際に未登記物件を取り壊して新しい家を建てる場合、どのような順序で手続きを進めればよいのでしょうか。時系列に沿って、トラブルなく進めるための具体的なステップを解説します。
ステップ1:既存の未登記物件の解体と自治体への申告
解体業者に依頼して、既存の未登記建物を解体し、土地を更地の状態に戻します。解体工事が完了したら、速やかに建物の所在する市区町村役場の税務課へ「家屋滅失届(未登記家屋の滅失届)」を提出します。
この届け出を行わないと、自治体は建物が取り壊された事実を把握できず、翌年以降も存在しない建物に対して固定資産税が課税され続けてしまいます。
法務局での建物滅失登記は不要ですが、役場への申告は絶対に忘れないように手配してください。
ステップ2:新しい建物の建築と「建物表題登記」
更地になった土地に新しい建物を建築し、工事が完了して施工会社から引き渡しを受けたら、土地家屋調査士の出番です。
土地家屋調査士は現地の測量を行い、建物図面と各階平面図を作成した上で、法務局へ「建物表題登記」を申請します。住宅ローンを利用する場合、表題登記が完了しないと融資の実行が下りないため、引き渡し前後のスケジュール調整が極めて重要になります。
余裕を持って、建物の建築中から土地家屋調査士に相談をしておくのが理想的です。
ステップ3:司法書士による「所有権保存登記」
表題登記が完了し、法務局のシステムに「表題部」が作成されたら、すぐに司法書士へ依頼して「所有権保存登記」を行います。
この手続きによって初めて法的な意味での権利証(登記識別情報通知)が発行され、第三者に対して所有権を主張できるようになります。住宅ローンを利用している場合は、これと同時に金融機関のための「抵当権設定登記」も申請することになります。
一連の登記手続きが完了して、ようやく未登記物件の建て替えプロジェクトが法的に完結します。
土地家屋調査士に依頼するメリットと費用の目安

表題登記は不動産の所有者自身で行う「本人申請」も制度上は可能ですが、専門的な知識と技術が求められます。土地家屋調査士に依頼する実務上のメリットと、あらかじめ見込んでおくべき必要なコストについて把握しておきましょう。
スムーズな登記完了と融資実行の担保
本人申請を行う場合、図面の作成ルール(0.2mm以下の細線を使用、JIS B4用紙の利用など)が非常に厳格であり、法務局での度重なる補正や修正を求められるのが一般的です。
建て替えに伴い住宅ローンを組む場合、金融機関は確実かつ迅速な登記完了を融資の条件として提示します。土地家屋調査士に依頼することで、金融機関が求めるスケジュール通りに間違いなく登記が完了し、スムーズに融資が実行されます。
図面作成の労力や手続き遅延のリスクを考慮すると、プロに任せるメリットは計り知れません。
表題登記にかかる費用の相場と内訳
新築建物の表題登記を土地家屋調査士に依頼した場合、一般的な戸建て住宅であれば費用相場はおおよそ8万円〜12万円程度です。
建物の形状が複雑な場合や、二世帯住宅などで区分建物の登記が必要な場合は、調査や図面作成の手間が増えるため15万円以上かかることもあります。表題登記自体には登録免許税という国への税金はかかりませんが、現地調査の交通費や事前調査の実費が加算される仕組みです。
その後に控える司法書士による保存登記には別途報酬と登録免許税が必要となるため、トータルの予算をあらかじめ確認しておくことを推奨します。
未登記物件の建て替えにおいて注意すべきポイント

未登記物件を取り扱う際は、すでに登記されている建物を扱う通常の手続きとは異なる特有のリスクが存在します。思わぬトラブルを防ぐために、事前に知っておくべき注意点をまとめました。
相続が絡む未登記物件の取り扱いについて
親から相続した実家が未登記物件であり、それを解体して建て替えるケースは頻繁に発生します。未登記のまま解体する予定であれば、遺産分割協議書で未登記建物を特定し、代表相続人が自治体へ家屋滅失届を出せば足ります。
建物を特定する際は、家屋番号が存在しないため、代わりに固定資産税の納税通知書に記載されている「家屋補充課税台帳の番号」などを遺産分割協議書に記載します。
万が一、解体せずにそのまま未登記建物を売却やリフォームして活用する場合は、相続人の名義で直接表題登記を行うことが可能です。
登記義務化の背景と放置するリスクについて
建物の表題登記を怠った場合、不動産登記法第164条により10万円以下の過料に処される可能性があります。
実務上、直ちに過料が科されるケースは多くありませんが、登記がない状態では不動産の売却や担保設定が一切できないという大きな問題が生じます。近年は相続登記の義務化など、不動産の権利関係を明確にする国の動きが加速しており、登記漏れに対する風当たりは強くなっています。
建て替え後の新築登記を放置することは実利上のデメリットが極めて大きいため、必ず1ヶ月以内に手続きを完了させてください。
まとめ

未登記物件の建て替えにおける手続きのポイントと、土地家屋調査士の役割について解説しました。既存の未登記建物を解体する際は法務局での滅失登記は不要ですが、自治体への「家屋滅失届」の提出を忘れないことが重要です。
新しい建物を新築した後は、建物の物理的状況を記録する「表題登記」を必ず行う法的義務があります。表題登記は現地調査と厳格な図面作成を伴うため、不動産表示の専門家である「土地家屋調査士」のサポートが不可欠です。
住宅ローンの実行や将来の不動産取引をスムーズに進めるためにも、建て替えの計画段階から専門家へ相談し、確実な登記手続きを進めることを推奨します。
